新宿を歩く|マンホールに隠された東京の花・木・鳥

関東
TOKYO / SHINJUKU — JOURNEY 002

足元に刻まれた、東京の花・木・鳥。

2008年6月7日|東京都庁付近

西新宿の高層ビルを見上げて歩いていた日。ふと足元に目を向けると、桜の花が大きく描かれたマンホールがありました。花びらの間にはイチョウの葉。さらに周囲をよく見ると、波のようにも見える不思議な模様があります。

この一枚に描かれているのは、東京都の花・木・鳥。桜、イチョウ、そしてユリカモメです。なぜ、この三つが選ばれたのでしょう。調べ始めると、思いがけない話に出会いました。

2008年6月7日に新宿・東京都庁付近で撮影した東京都の花・木・鳥のデザインマンホール
東京都の花・木・鳥が描かれたマンホール。2008年6月7日、都庁付近で撮影。写真:ぶらりマンホール

撮影記録について この写真は2008年に実際に撮影した通常サイズのマンホールです。似た模様の小型蓋とは区別し、当時の写真そのものを掲載しています。

新宿・東京都庁付近の高層ビル群を撮影した風景写真
高層ビルが並ぶ西新宿。足元の模様を見つめると、街の違った表情に気づきます。写真:ぶらりマンホール

01|都の花・ソメイヨシノ

東京都の花はソメイヨシノ。1984年(昭和59年)6月、都の花選考会による検討などを経て選ばれました。単に「桜」といっても種類はさまざま。その中でソメイヨシノが選ばれたのには、東京との深い縁が感じられます。

名前の由来は、かつての染井村、現在の豊島区駒込付近。江戸末期から明治初期にかけて、この地域の植木職人たちがソメイヨシノの普及に関わったと伝えられています。満開の華やかさと、散り際の花吹雪。都心のビル群の間にも桜の名所が多く、東京とワシントンの桜の交流史にも話がつながります。

桜をマンホールの中心に置いたのは、江戸の心意気を表しているのでしょうか。これは撮影当時、私が勝手に想像したこと。そんな想像も、足元を見て歩く楽しさの一つです。

大阪・長居植物園で撮影されたソメイヨシノの花
ソメイヨシノの花。2026年、大阪市の長居植物園で撮影された参考写真(2008年の新宿の写真ではありません)。
写真:Laitche / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

02|都の木・イチョウ

イチョウが都の木に選ばれた経緯には、意外な話があります。1966年(昭和41年)、候補はケヤキ、イチョウ、ソメイヨシノの三つ。都民投票の結果は、イチョウ7,919票(49%)、ケヤキ5,153票(32%)、ソメイヨシノ3,032票(19%)でした。

ところが、当時の記録では選考委員の大多数はケヤキを支持していたそうです。それでも都民投票の結果に沿ってイチョウに決まり、同年11月14日に発表されました。もし委員の意見が優先されていたら、今のマンホールの葉はケヤキだったのでしょうか。

イチョウは古い系統を受け継ぐ植物として知られ、都市の街路樹にも広く使われています。秋、明治神宮外苑の並木が黄金色に染まる風景も東京らしいものです。

秋の明治神宮外苑のイチョウ並木
秋の明治神宮外苑。2019年撮影の参考写真。
写真:Kakidai / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

03|都民の鳥・ユリカモメ

東京都がユリカモメを都民の鳥に指定したのは1965年(昭和40年)10月1日。白い体に赤いくちばしと脚が印象的で、冬には東京湾や隅田川、多摩川などで姿を見ることができます。

ここで気になるのが「都鳥(みやこどり)」という呼び名。ユリカモメは古くから都鳥と結びつけて語られてきましたが、現在の鳥類の和名「ミヤコドリ」は、黒白の体に長い橙色のくちばしを持つ別の種類です。

冬のユリカモメ
ユリカモメ。2011年、スロベニアで撮影された参考写真。
写真:Petar Milošević / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)
A LITTLE DETOUR

都鳥は、本当にユリカモメなのだろうか?

『伊勢物語』の「東下り」では、隅田川で「都鳥」と呼ばれる鳥を見て、都に残した人を思い出す場面があります。この鳥はユリカモメと解釈されることが多い一方、古い文献に出てくる都鳥が常に同じ鳥を指すとは限りません。『万葉集』の都鳥についても、その正体には議論があります。

さらに以前調べたとき、「1974年以前の京都ではユリカモメが見られなかった」という趣旨の話に出会いました。「都では見かけない鳥」だから都鳥なのか――そんな想像まで膨らみます。

ただし、この年代の話と名前の由来は、今回確かな資料で裏付けられていません。「都鳥」の語源として断定できる話ではなく、私が当時抱いた疑問として残しておきたいと思います。調べる余地があることも、旅の記録の面白さです。

ミヤコドリの姿
ミヤコドリ。2022年、インドで撮影された参考写真。
写真:Afsarnayakkan / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

足元から始まる、東京の物語

花と葉と鳥が描かれた一枚のマンホール。調べてみると、都民投票の数字、江戸の植木職人、古典文学、渡り鳥の名前まで話が広がりました。高層ビルを見上げるだけでは出会えない東京が、足元にありました。

旅は、足元から始まる。

旅のメモ
撮影日:2008年6月7日
撮影地:東京都新宿区・東京都庁付近
記録:ぶらりマンホール旧サイト原稿をもとに再編集

資料と写真について:東京都の花・木・鳥に関する記述は、東京都の公表資料と過去の取材記録を参考にしています。「都鳥」の由来や京都での観察に関する話は、確定した事実ではなく、旅の途中で生まれた疑問として紹介しています。本文のマンホールと都庁周辺の写真は当時の撮影記録です。その他の写真は別の時期・場所で撮影された参考写真です。記事冒頭の表紙画像は編集用のイメージ画像です。

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